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◇『切ない虫の知らせ』★ 洗顔後、タオルで顔を拭きながらふと鏡を見ると、私じゃない顔が映っていた。 「ヒッ！」驚いてあとずさりしたけど、よく見ると鏡の中の若い女性は涙を流 して微笑んでいることに気がついた。でも知らない人だ。怖いというより、誰 だったかな？なんで泣いているのかな？といったことに気を取られて見つめて しまった。その女性は私に向かって深くお辞儀をして、消えた。「何？今のは」 洗面所で呆然とする私。その時電話が鳴り、祖母の死を知った。まさか…？今 のは、おばあちゃん？私は母に今見た女性の容姿を伝えたら、母はビックリし てこう言った。「おばあちゃんの若い頃の姿がそんな感じだったわね。ここ数 年は、あんたも知っているようにボケて子供に返っちゃってたでしょ。死んで 身内に会いに行く時に、人生で一番楽しかった頃の姿で会いに来てくれたのか しらねぇ」母はため息をついていた。祖母は戦争で夫を亡くしてから、女手ひ とつで、苦労の連続だったことだろう。そんな祖母の一番幸せだった姿が祖父 と出会った頃であろう若い時っていうのを考えた時に、涙が出た。 |
