◇『左肩のぬくもり』★
　交差点に真新しい花束がそえてあり、立てかけた看板にはひき逃げ犯によって
　小学生が轢かれて死亡した記事が書かれていました。なにげなく看板の文字を
　読んでいたら、となりにランドセルを背負った男の子が泣いています。どうし
　たの？と聞いたら「車が多くて渡れないの」と心細そうな様子でした。信号が
　青に変わり男の子と手をつないで渡ろうとしたとき、急に左肩を強い力で押さ
　えられて動けなくなりました。ハッと気がついたら男の子の姿は消えて、信号
　は赤のままでした。目の前をたくさんの車が走っています。そして車道の真ん
　中に、あの男の子が悔しそうに私を睨んで立っているのです。よく悪霊は右に
　憑くといいますが、左肩には私を助ける何者かの手のぬくもりを感じました。
　今もあの男の子は一緒に渡ってくれる人を待っているのでしょうか。