◇『エレベーター』★
　　友人と待ち合わせのスカイレストランへ向かうエレベーターに乗ったとき。同
　　乗したのは、仲のいいカップルと初老のご婦人グループなど数人でした。通過
　　階を示す扉上部の数字は、ものすごいスピードでくるくる変わっていきます。
　　エレベーターの急上昇に足元がガクガクと不安定なので、私は壁に寄りかかり
　　早く着くようにと扉ばかり見つめていました。ご婦人グループは無口になり、
　　カップルの女性は青ざめていた。男性は「やっぱり帰ろう…」と彼女の肩に手
　　をおきました。その時、ガリガリ、と壁を引っ掻くような振動を背中に感じま
　　した。私が寄りかかる壁の向こう側に何かがいる！ありえないことだけれど、
　　背中越しに包丁を突きつけられているような殺意を感じました。エレベーター
　　の急激な気圧の変化に耳がキィーンと不快感を感じます。ふと見ると、カップ
　　ルは小声でケンカをしているようでした。やがてエレベーターを降りる時、彼
　　の後ろを歩く彼女が「…許さない」とつぶやいたのが聞こえました。その時、
　　見たのです。彼女の爪はネイルがはがれかけて、不自然に割れていたのを…。