◇『不景気でも快進撃の“ざうお”』TEXT by MARS 
　　長いことフリーライターという仕事をしていて、つくづく役得やわーと思うこ　
　　と。それは、有名無名のさまざまな人に会い、聞きたい話が聞けること。これ
　　だけインターネットが普及してバーチャルな世界が広がっても、いや、そうい
　　う世界が広がれば広がるほど、やっぱり生身の人間はおもしろい。そこで、最
　　近会った人の中で、特に印象に残った人のことを書こうと思う。それは、以前
　　トレキャ有料版でも何度か紹介しているが、福岡で店舗を展開して爆発的に人
　　気を呼び、昨年６月には埼玉にも進出した「釣船茶屋ざうお」の高橋徳記社長。
　　「ざうお」はとにかく、１度行ったら忘れられない居酒屋。店にもよるが、店
　　内に巨大プールがあり、そこにバカでかい木製の船が置かれ、中に座敷がずら
　　り。水槽には1000匹ほども魚が泳いでいて、釣竿とエサを200円で貸してくれ、
　　釣れたら注文するよりうんと安く料理して出してくれる…というシステム。マ
　　ダイ、ヒラメ、ハマチなど高級魚も泳いでいるので、釣れたら絶対おトク。引っ
　　かけるのがうまい人ならカワハギくらいはすぐに釣れる。平日はサラリーマン、
　　週末は家族連れでいっぱいだ。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　▼
　　高橋社長は４年前まで、ノベルティグッズの会社を経営。ところが大手取引会
　　社が倒産、巨額の未収金が残って途方に暮れた。これではイカン、現金が入る
　　食いもん商売をしようと考えた社長、福岡で170坪の古倉庫を家賃25万円で借り　
　　た。「でも普通ではおもしろくない、みんなをびっくりさせたろ！」と、倉庫
　　いっぱいに水を溜めて20ｍの船を置き、漁師のように釣ってすぐ魚を食べたら
　　旨いんではないかと、釣りができる居酒屋アイデアを実行。しかも、水槽も船
　　も自作！「えーっ、一人でそんな大きな船造れるんですか？」と聞くと、「僕
　　ね、大学３年の時、自分で10人乗り用の中型クルーザーを造ったんですわ」。
　　半年かけて完成して、海へ。「でも事故して死にかけてねー。海に投げ出され
　　てスクリューに巻き込まれて、ほら」と、肩から胸までバックリと長い縫い傷　
　　が…。おお社長、さすが根性入っとる。１店目はみごと成功、福岡で次々店を
　　出し、今では社員120名、年商25億円の会社に。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　▼
　　店を出すごとに社員で全て手作りするから、設備投資が安くて済むのが成功の
　　秘訣なんだとか。しかも水槽はサンゴ礁を使った浄化装置つき。「１艘目は３
　　カ月半かかったけど、今は25ｍの船でも１人で２カ月、10人なら３日で造れる。
　　配管や水回りなど店の完成まで２〜３カ月。社長というより、毎日が大工だな
　　あ」と笑う。社員も20代が中心でみな若く、オープンまでの数カ月、船と店造
　　りに汗する日々。なんか、おもしろいじゃありませんか。今後、関東にバンバ
　　ン打って出るとのこと。関西に出す予定は今のところないのが残念だが、ハワ
　　イなど海外も射程に入れているというから夢は大きい。モノが売れない、景気
　　が悪いと言うけれど、頭と体を使えばこんなおもしろいこともまだまだできる。
　　これからはまさに個人ががんばる時代という好例。「ところで高橋社長、ご趣
　　味は？やっぱり釣りですか？」と聞くと、「実は…釣りは嫌い」だって。
　　━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

　　　　　　　　　　　　　　＜編集長からヒトコト＞

　　　トレキャW版でも、昨年末から今年頭にかけて何度かご紹介してきた話題
　　　の居酒屋。大人から子供まで楽しめる“参加型飲食店”はこれからの注目
　　　株といえるかもしれません。ちなみに「イサキの活き造り」で2000円也！